フィギャーノートを授業や生活の中で活用された方の声をお届けするロングインタビュー。
第1回目は、南島亜矢子先生のインタビューをお届けします。
特別支援の現場で長年子どもたちに寄り添ってきた南島先生。
現在は学習支援員として、さまざまな子どもたちの生活や学びを支えています。
そんな先生が「音楽の授業に困り感を抱えていた男の子」と出会ったことをきっかけに、フィギャーノートを使ってみたのが始まりでした。
「これだったらやってみたい」
そう言って、鍵盤を一生懸命弾き始めた彼。
その一歩を目の前で見届けてきた先生だからこそ語れる、フィギャーノートの魅力と可能性があります。
インタビューでは、これまでのエピソードを交えながら、
「できない」から「できるかも」へ変わる、その瞬間の裏側を丁寧に語ってくださいました。

フィギャーノートを知ったきっかけとは?
Q:どんなきっかけでフィギャーノートを知りましたか?
南島:最初のきっかけは、月1回自主的に集まる教材研究サークルのメンバーから、フィギャーノートの体験会を紹介されたことです。
同じタイミングで、音楽の授業が苦手な子の指導に困っていたこともあって、それを機に
フィギャーノート普及会代表の松田真奈美先生に話を聞きに行った、という流れでした。
Q:音楽の授業ではどんなことに困られていましたか?
南島:当時は特別支援教室の教員でしたが、小学校5年生の通常級に通っている男の子が、音楽の授業に行きたがらないという話を担任の先生から聞きました。連合音楽会の曲をまず鍵盤ハーモニカで練習する段階でしたが、練習の意欲はありませんでした。
そこで、マンツーマンで指導する個別の時間に、フィギャーノートでの鍵盤ハーモニカの練習をその子に提案しよう!と思いました。
フィギャーノートを使ってみて…
Q:フィギャーノートを使った音楽の指導はどうでしたか?
南島:提示した段階で彼がすぐ弾く気になったことは、大きかったと思います。
手立てがない時とは明らかに違う「やってみよう!」という姿勢を見せてくれました。
それから、特別支援教室のキーボードにシールを貼ってフィギャーノートの楽譜を見せてみたら、一生懸命に弾き始めたんです。
「これだったらできる!」と思いました。鍵盤のシールと、フィギャーノートにある記号とのマッチングで弾いていくのは得意だったようです。
頑張って弾いている動画を撮って、担任の先生に見せると「すごい!できるんだ!」という反応が返ってきたのも印象的でした。
何度か個別の時間に練習しましたが、周りの子と同じ演奏スピードで弾くことは難しかったので、音楽の先生と本人で話し合い、連合音楽会は打楽器の担当になりました。本番までしっかりやり遂げましたよ。
フィギャーノートに出会うまでは「僕はできない。」と合奏の練習自体に取り組んでいなかったので、その彼が「やったら少しできた!」の経験ができたことは本当によかったです。できればもっと早くフィギャーノートに出会わせてあげたかったと思いました。
Q:フィギャーノートを使った指導は自由にできる環境でしたか?
南島:当時私が勤務していた小学校は、フィギャーノート普及会からの依頼を受けて市の教育委員会が各校のパソコンにデータを入れてくれたので、教員は自由に印刷をすることができました。
音楽の授業で積極的に取り入れてもらうという働きかけまではできなかったですが、私は個別指導で使用することができたので、音楽の授業が苦手だなと感じる子どもがいる時には使ってみていました。
活用の場はどんな風に広がったのか?
Q:その後も印象的だった児童はいましたか?
南島:特別支援教室専門員という職について困り感のある児童の支援をしていた時に、「〇〇ちゃんがリコーダーで困っていて、音楽の授業に行きたがらないです。何かいい手立てはないですか。」と担任の先生から相談がありました。
その児童は3年生の男の子で、音楽の授業でパニックを起こすことが増えている、という状況でした。すぐ「フィギャーノートを使ってみよう。」と思いました。
教室に残っていたその子にフィギャーノートのリコーダーの譜面を見せると「これだったらやってみる!」と表情が和らぎました。
たまたまもう一人残っていた女の子も実は困り感を抱えていたようで「私も欲しい!」となり、二人が練習を始めるようになり、そのことが嬉しかったです。
リコーダーの譜面は押さえる穴が色で示されていて、マッチングがしやすいです。
また「全部吹かなくてもまずは赤(ド)だけ吹いてみよう。」と自分なりの目標を決め少しずつ練習することができるので、そのステップを踏めることもいいなと思いました。
Q:フィギャーノートを使ってみて、南島先生の指導方法や児童への関わり方に変化はありましたか?
南島:リコーダーの二人の練習以降、色々な学年の音楽の授業を見に行く機会を増やしました。
事前に音楽の先生から楽器について心配な児童について相談を受けることも増え、楽器の練習時間にフィギャーノートの譜面を児童に紹介したり、鍵盤ハーモニカにシールを貼ったりしてできる範囲で支援しました。
フィギャーノートによって「やってみる。」という児童の姿を見る機会が増え、音楽の先生が「これはすごくいい!」と言ってくださる展開もありました。
ちょうどこの頃、フィギャーノートの「学校利用」がスタートし、データを学校予算で購入できるようになり、音楽の先生と相談をして予算要望を出し購入し、現在では必要枚数を職員室で印刷して授業で活用することができています。
今後について
Q:フィギャーノートを今後どんな風に使って行きたいと思いますか?
南島:私がフィギャーノートを使って個別の指導をしていた頃、市内の他の小学校でフィギャーノートを使った通常級の音楽の研究授業がありました。
”【五線譜の楽譜】と【フィギャーノートの楽譜】、両方用意して好きな方を使う”という授業でした。
準備の大変さはありますが、困り感のある児童に紹介するという方法ではなく、全員に配って一人一人が選べる、というのが理想的だなと感じました。
学校の教科学習では圧倒的に読み書きの時間が多いので、学習の支援の話題はどうしてもそちらの方向に向きがちです。
もちろんその支援は大切ですが、他の教科でも困っている児童は必ずいます。
適切な手立てがあって少しでも「やればできた!」と思える場を増やしたいのはどの教科も音楽も同じ。「この方法ならできる!」と感じてもらうタイミングを少しでも増やせれば、と思っています。
Q:今後のフィギャーノートやはぴみゅーずに望むことはありますか?
南島:私がフィギャーノートを使って音楽の支援をしてみた児童は明らかに「やってみよう!」という姿勢を見せてくれます。ただ、長く楽器に向き合えなかった児童の場合は、練習しても周りの児童とのスピード感が合わないことはあり、現実的な厳しさも感じます。
そのためには音楽の授業の早い段階からフィギャーノートがあることが当たり前で、五線譜とフィギャーノートを児童に選ばせ「できた!」の経験を低学年のうちから積み重ねることが学校でできたらいいなと思っています。
【はぴみゅーず】で学校利用のシステムは作ってくださったので、購入さえすれば利用はどんどんできると思うのですが、知らない教員がまだまだ多いので、まずは特別支援関係や音楽の先生の研修項目に加わればいいなと思います。支援してくださる大学の教授などがいらっしゃると後押しにもなりますね。
でもまずは現場で、困り感のある児童にフィギャーノートを提示したら児童が変わった!と、担任や音楽の先生が感じる場を増やしたいです。
そして「やればできた!」という子どもたちの笑顔を少しずつでも広げていきたいです。
【聞き手/編集:沖野亜希】